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   海のオアシス
  二、 八重山(2)地球で最も巨大な構造物 

 この地球上につくられた最も大きな構造物は、ピラミッドでも万里の長城でもなく、サンゴ礁だ。個体ひとつの大きさが数ミリというような造礁サンゴたちが、長い年月をかけて、巨大な地形をつくりあげた。
 石垣島の南西から西表島にかけて広がる八重山のサンゴ礁は「石西礁湖(せきせいしょうこ)」と呼ばれる。名前の上で「湖」かもしれないが、どう見ても「海」。船を出せば、島々は彼方(かなた)にかすんでいる。その水中では、サンゴが今日も壮大な土木事業に励んでいた。1ミリ、また1ミリと。


 ◆「自然教室」で魅力を紹介

 「環境省国際サンゴ礁研究・モニタリングセンター」。石西礁湖を望む石垣島の海岸沿いに、そんな名前の施設ができたのは平成十二年五月。道路の案内板を見て、水族館のようなものと勘違いする観光客は少なくない。

 実のところ、その業務内容はサンゴ礁に関する研究・文献などのデータベース作成や、地球規模でのサンゴ礁調査ネットワークの構築…と、なにやら小難しい。かなり専門的で地味な施設である。それでも年間の来館者は五百人を超える。

 「せっかく興味を持ってもらえるチャンスですから。手が空いていればレクチャーをしていますよ」

 と話すのは、環境省の石垣自然保護官、岡野隆宏さん(三一)。滋賀県生まれ。山登りが趣味で、自然保護行政の現場を志した。今年三月から同センター内にある石垣自然保護官事務所に勤務している。

 館内の空き部屋には、迷い込んだ人向けに手作りの展示スペースがある。色々な砂から、石垣島のものをあてるクイズ。一番白くて粒の粗いものが正解。サンゴ礁の海域では、サンゴや貝の破片など生き物の死骸(しがい)が打ち寄せられ、白砂のビーチができる。有名な「星砂」も有孔虫の死骸だ。なるほど、ふむふむ。

 でも最近は、開発に伴う海域汚染、オニヒトデや巻き貝による食害、環境の変化による白化現象などが、サンゴ礁にダメージを与えていて…。ハッ。気が付けば、すっかり聞き入ってしまった。

 「レンジャー」と呼ばれる自然保護官の職務は幅広い。国立公園の保全業務のほか、自然保護の啓蒙活動も仕事のひとつ。話し上手も商売柄かもしれない。

 岡野さんたちは、定期的に「海の自然教室」を開いて、希望者をサンゴ礁へ案内している。澄んだ海に囲まれたこの島でさえ、暮らしは海辺からどんどん遠ざかっていて、泳がないという人は結構多い。六十歳を過ぎたおばあさんが水中メガネをのぞいて「こんなにきれいだったんだねぇ」と目を輝かせる。

 「きれいやなぁ、いいなぁって感じるところから、守りたいという気持ちが生まれると思う。稀少価値がどうこうとか、理屈はあんまり心に響かない。ひとりでもいいなぁと思う人を増やしたいですね」
                               文  篠原知存

 写真左上/石西礁湖には、エダサンゴやテーブルサンゴがひしめき合うように広がっている=西表島沖
 写真右下/生活圏にもサンゴ礁。町外れの海岸が岡野さんのお気に入りだ=石垣市
                               写真 頼光
                                     (2003/08/12)